近年、建設業界をはじめとする様々なモノづくりの現場で、デジタル化が急速に進んでいます。従来の紙の図面に頼っていたプロセスから、CADデータを活用したワークフローへと移行しています。この変革は設計業務の効率化とコスト削減をもたらし、ビジネスの競争力向上にもつながります。
建築や製造業界が求める設計データはCADフォーマットが一般的で、デジタルデータへの変換は避けられない課題となっています。しかし、従来からの膨大な紙図面資産をどのようにデジタル化していけば良いのか、多くの企業が頭を悩ませています。
本記事では、紙図面や紙に印刷されたPDFファイル(ラスタPDF)からCADデータへの変換手順を解説します。作業の内製化とアウトソース、無料ツールの活用方法など、様々な選択肢を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
紙図面からCADへの変換の重要性とは
1. 設計業界のデジタル化とCADの重要性
設計業界では、近年デジタルトランスフォーメーションが急速に進んでいます。従来の紙ベースの設計図書から、3次元CADデータを活用したBIM/CIM(建設/製造業における情報モデル化)への移行が進行しています。2次元のCADデータだけでなく、3次元のBIM/CIMデータが主流になりつつあります。BIM/CIMは、建設や製造の各工程で必要な設計情報を一元的に管理・共有することで、業務効率の向上、コストダウン、高品質の製品を実現します。
こうした動きに対応するには、企業内の紙図面資産をデジタル化し、CADデータに変換することが不可欠です。CADデータがあれば設計モデルの修正も容易で、シミュレーションによる事前検証も可能になります。紙から電子データへの移行は、業界のデジタル化に向けた第一歩と言えるでしょう。
2. CADデータへの変換がもたらすメリット
紙図面から高品質なCADデータに変換することで、以下のようなメリットが得られます。
- 設計データの有効活用とシェア: CADデータはデジタルでのシェアが容易で、設計情報の伝達ロスを防げます。
- リソースの効率化: データ検索・加工・配布の手間が省け、設計リソースをより価値の高い業務に振り向けられます。
- 安全な長期データ保存: 紙は劣化する恐れがありますが、デジタルデータなら長期保存が可能です。
- BIM/CIM対応: 3次元のBIMモデルは紙ベースでは構築できず、CADデータが前提条件となります。
つまり、CADデータ化は設計情報の高度な活用を実現し、業務プロセスの改善とコストダウンにつながるのです。
3. 紙図面をCADデータ化するためのツールと方法
紙図面やPDF図面からCADデータを作成する主な方法は以下の通りです。
- 手作業によるトレース: 図面をスキャンし、画像上に重ねてトレースするマニュアルな方法です。
- 専用の自動ベクタライズ: 図面をスキャンし、ソフトウェアが線画を自動でベクトル化します。
- CADソリューションベンダーのサービス利用: 専門のベンダーにトレース作業を一括委託することができます。
内製か外注かを見極める必要がありますが、高度なツールやサービスを利用すれば、作業効率と品質の両立が可能になります。
様々なツールやサービスがあるため、次に具体例を見ていきましょう。
紙図面でもデータ変換できる?
スキャナで読み込んでデータ化
紙図面をデータ化する最も基本的な方法は、スキャナで図面を読み取り、画像データに変換することです。この方法のメリットは、特別な機器を必要とせず、一般的なスキャナさえあれば誰でも取り組めることです。
ただし、スキャンされた画像データはラスタ形式(ビットマップ)となるため、CADのようなベクトルデータとしては扱えません。そのため、画像上に重ねてマニュアルでトレースする必要があり、作業工数が膨大になってしまいます。精度の面でも、紙の品質や解像度によっては再現性に課題が残る可能性があります。
つまり、スキャンによるデジタル化は第一歩に過ぎません。手作業での後工程が必要不可欠なため、効率化を図れないという欠点があります。小規模な案件には低コストで対応できますが、大量の図面をデータ化する場合は現実的とは言えません。
専用システムでデータへ変換
紙図面のCAD化を効率的に行うには、専用のベクトル化ソフトウェアを利用する方法があります。高解像度のスキャナで読み取った画像データから、ソフトウェアが自動で線画を抽出し、ベクトルデータに変換してくれます。
この方法のメリットは、大量の紙図面の変換にも対応でき、マニュアルトレースに比べて格段に作業効率が高いことです。また、再現性とデータの品質も一定の水準を維持でき、後工程の手間も最小限に抑えられます。
一方で、専用ソフトウェアの導入と習熟のコストがかさむことが欠点です。大規模な変換プロジェクトでない限り、コストパフォーマンスが見合わないケースも考えられます。また、ソフトウェアへの過度な依存は望ましくなく、運用面での人的リソースの確保も重要となるでしょう。
CADトレース代行サービスの利用
自社でベクトル化システムを導入するのではなく、専門のCADトレース代行サービスを活用するのも手段のひとつです。サービス会社に紙図面を送付すれば、CADデータに変換してくれるのでローコストで利用できます。
こうしたサービスのメリットは、変換の手間を全てアウトソースできることです。専任のオペレーターが高度なツールを駆使して作業を行うため、品質の維持と大量処理への対応が可能になります。単発の案件から大規模なプロジェクトまで、ニーズに合わせて柔軟に手配できるのも利点です。
ただし、図面のセキュリティ面のリスクや、納期とコストの管理が課題になる場合があります。コミュニケーションの質が品質に直結するため、サービス会社の対応力を見極める必要があります。中長期的なニーズを見込める場合は、ツール導入を検討した方が得策かもしれません。
総合的に判断し、自社のリソースと案件規模に合わせて、最適なアプローチを選ぶ必要があります。次に、代行サービスの選び方のポイントを確認しましょう。
紙図面CAD化サービスの選び方
サービスの選定基準
CADトレース代行サービスを選ぶ際は、以下の基準を考慮する必要があります。
- 変換の品質と精度: 出力されるCADデータの品質が、要求仕様を満たしているか確認が重要です。サンプル品質チェックも検討すべきです。
- 対応フォーマット: 入力元の図面フォーマットと出力先のCADフォーマットが、要件に合っているかを確認しましょう。
- セキュリティ体制: 機密性の高い企業データを預ける以上、サービス会社のセキュリティ対策を評価する必要があります。
- 自動化の度合い: 大量の図面変換を想定する場合、自動化された効率的なワークフローが必須です。
- サービス内容: データ修正や加工などの付加サービスがあれば、ニーズに合わせて選択できます。
- 実績とスキル: 同業界での豊富な実績と専門性の高いオペレーターが在籍しているか確認しましょう。
サービス会社の信頼性と実績を総合的に吟味する必要があります。単に一番安いところを選ぶのではなく、中長期的なコストパフォーマンスを考慮すべきです。
コストパフォーマンスの考慮
コスト面ではサービス料金とデータボリュームによる費用の積算が重要です。見積り時の透明性を確認し、予算内に収まるか事前にシミュレーションしましょう。
一方で、長期的なコストを考えると、安価な代行サービスでは必ずしもコストパフォーマンスが良いとは限りません。品質の劣化や作業効率の低下を招けば、かえってロスが大きくなる可能性があります。高品質な出力を確実に得られるサービスを選んだ方が賢明です。
自社でのトータルコストを算出し、委託費用と比較検討する必要があります。単年度だけでなく、数年から数十年と長期に渡るコスト見積もりが肝心です。その上で、最適なサービスを選んでください。
納期とサポート体制の重要性
サービス会社の選定で重視すべきもうひとつのポイントは、納期とサポート体制です。
変換スピードとサービス対応力はプロジェクトの遅延リスクに直結するため、サービス会社の受注能力を事前に確認しましょう。仮に内製化した場合の作業工数から逆算して、十分な処理能力があるかどうかを検証する必要があります。
またCADデータの納品後のサポート体制も欠かせません。出力データの疑問点やトラブルへの対応力、データ修正への柔軟性を確認しましょう。コールセンターによる迅速な問合せ対応はもちろん、オンサイトで訪問サポートを受けられるかも選考材料になるでしょう。
CADデータの品質よりも、むしろ納期とサービスの継続性が最重要ポイントになる可能性があります。トレース代行サービス選定においては、ベンダーの総合力を入念に見極める必要があるといえるでしょう。
紙図面CAD化の成功事例
実際のプロジェクトでのCAD化の効果
多くの企業で既に紙図面からCADデータへの変換が進んでおり、様々な効果が実証されています。
建設業界の大手ゼネコンでは、長年の事業で蓄積された数百万枚にも及ぶ紙図面の電子化を実施しました。CADデータ化とBIMモデルの構築によって、設計から施工までを3次元デジタル情報で一元管理できるようになりました。従来の設計変更で生じていた情報の行き違いや無駄なリワークをなくすことができ、業務効率が大幅に改善されました。
また、プラントエンジニアリング会社の事例では、プラント設備の老朽化対策でCAD化を行いました。既存の図面がメンテナンスに不可欠であるにもかかわらず、紙の劣化が進行していたためです。CADデータ化によってデータの永久保存が可能になり、将来のメンテナンス作業の効率化や安全性の向上が期待できます。
このように、業種や用途を問わず、紙図面のCAD化は設計データの利活用と維持管理において大きな価値をもたらします。有形無形の効果が得られるため、長期的な観点から投資効果を検討する必要があるでしょう。
業界別CAD変換のベストプラクティス
紙図面をCADデータ化する際のベストプラクティスは、業界によってさまざまです。業態ごとの特性に合わせてアプローチを変える必要があります。
建設業界では、図面の種類が多岐に渡るため、特にCADの互換性を重視する必要があります。建築、土木、設備と専門分野によってCADフォーマットが異なります。また設計図から施工図まで多様な種類の図面があり、それぞれで適切なレイヤ構成の設定が欠かせません。
製造業界でも同様に、自動車や産業機器、プラントなど製品分野ごとにCADフォーマットの標準があります。設計担当部署ごとの要件に合わせた綿密な打ち合わせを行い、データ移行のルールを徹底することが重要です。構造解析のためのソリッドCADデータ化なども必要となります。
これらの大規模案件では、CADエキスパートによるコンサル支援を受けるのがベストプラクティスと言えるでしょう。要件の洗い出しから、作業の標準化、品質管理まで、きめ細やかな支援を業界に精通したプロフェッショナルから受けることをおすすめします。
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